エリーゼのために

いつか、また逢おうね

リボンちゃんとハートちゃん

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夏祭りの季節だ。娘にとっては6回目の夏。欠かさず参加してきた地元の祭と盆踊り大会では、すでにベテランと呼んでもよいだろう。

昨年、4歳のとき、初めての金魚すくいで、なんと2匹をすくってみせた。勇んで今年もチャレンジしたが、意識して挑むとなかなか思うようにはいかない。ビギナーズラックとはそういうことだ。残念賞で2匹もらって帰ることになった。

さて、昨年とった金魚は、金魚すくいの体験自体が目的だったので、そのまま返してしまったのだが、今年もらった金魚は飼うために持って帰ることに。そして娘にとって初めて飼うペットになった。

大きいのと小さいのが1匹ずつ、さっそくそれぞれに名前がついた。リボンちゃんとハートちゃんである。ちゃんと自分でお世話するんだよ、という約束のもと家に持ち帰り、ペットボトルの底をハサミで切った即席水槽に金魚を移し替える。しかし、はて? まともに金魚など飼ったことのない私にとって、どうしてあげたら良いかがわからない。少し時間をおいた水道水を足してみたものの、これでいいのか? 大丈夫か? このあとどうすればいいの?

案の定、その晩に、大きい方のリボンちゃんが死んだ。水面に横を向いて浮かんでしまったリボンちゃんを見ている娘はどんな思いだったのか。外目にはあまり悲しむ様子もなく、大人からすると、まだ小さいからこんなものかなと思ってみたり。しかし一方で、小さな頭の中で、表情には現れない感情が大いに動き回っているのかもしれないと想像してみたり。

翌日は日曜日だったので、近所の比較的大きめの公園に埋葬しに行くことになった。大きな樹の下の根っこの隙間にシャベルを突っ込み穴を掘り、そこへリボンちゃんを寝かせた。そして娘と一緒に土をかける。最後に、そこらで娘が拾ってきた葉っぱをのせて、さよならを言った。

こうなるともう1匹、生き残ったハートちゃんを死なせるわけにはいかない。にわかに「金魚の飼い方×初心者」をあれこれ検索。いくつか見ただけでも、なるほど結構デリケートなのねと、もちろんテクニック的にはいろいろあるが、最大のポイントは変化に弱いということらしい。であるならなるべく触らずショックを与えないことを第一にして、徐々に望ましい環境に移行させることだ。どういう状態にすれば良いかはだいたいわかったのだが、急にその状態にすること自体が危険。となると、ゆっくり一つずつ整えていくしかない。しかし、最初の水換えと器の選択で過ちを犯していることに思い当たり、どうにも手が打てない。果たしてしばらく持ちこたえてくれるか。

そんな願いも虚しく、翌々日の夜、娘が眠りについたあとに、ハートちゃんも水面に横たわって動かない状態に。

翌朝、目を覚ました娘に話をした。事実を淡々と受け止めているようだ。ゴハンをあげたいといって買ってきたエサを一粒もやることなく、こういう時は大人の方が妙に感傷的になってしまう。

裏の公園に埋めてあげよう。前の晩に強いにわか雨が降ったせいで土は柔らかい。リボンちゃんよりひとまわり小さいハートちゃんの穴はすぐに掘れた。寝かせて土をかける。拾った葉っぱをのせてバイバイと言う。出勤前のほんの数十分、娘と手をつないで金魚を埋めに公園まで歩く。この記憶は、娘にとってはともかく、私にとってもどのくらい残っていくものなのだろうか。

幼稚園は今日でおしまいらしい。明日からは夏休み。一生で二度とやってこない5歳の夏休みの始まりである。